労働安全衛生法とは?関連する資格の取得方法や試験内容について
2016/10/25
労働者が安心して働くためには、職場の安全と労働者の健康を確保しなければなりません。そこで、重要ポイントになってくるのが「労働安全衛生法」です。労働者にかかわらず、会社・営業所を運営する方たちにとっても知っておかなければならない法律になります。では、労働安全衛生法とは一体どんな法律なのでしょうか。これから、労働安全衛生法の基礎知識や有資格者・資格試験など詳しく説明します。
- 労働安全衛生法(労安法)とは
- 労働安全衛生法が定める労働安全衛生規則とは
- 労働安全衛生法が定める労働衛生計画とは
- 労働安全衛生法の改正とストレスチェックの義務化について
- 労働安全衛生法が定める有資格者について
- それぞれの資格についての詳細
- 労働安全衛生法に関してよくある質問
この記事を読むことで、労働安全衛生法の知識を身につけることができます。労働安全衛生法に基づく資格を取得したい方は、ぜひチェックしてください。
1.労働安全衛生法(労安法)とは
職場・労働者の安全を守るためには、労働安全衛生法(労安法)を把握することが大切です。それでは、一体どんな内容・目的があるのか、詳しく説明します。
1-1.歴史
労働安全衛生法は1972年10月1日に施行された法律です。施行される前、戦後における労働災害の発生や死亡事故が毎年増加していました。なんと、1961年には労働災害で亡くなった人数が6712人とピークに達したのです。その後も6,000人前後の死亡者が出ていたため、国は労働災害防止のために労働安全衛生法を制定しました。結果、施行されてから1975年までの3年間だけで、死亡者数が毎年約2,000人減少したのです。その後も減少傾向は続き、1983年には死亡者数が2500人台にまで少なくなりました。
1-2.概要
労働安全衛生法は省略して「労安法」と呼ばれています。労安法は、13章および附則(法律の規定を補うためにつけ加えた規則)から構成されている法律です。総則から労働災害防止計画・安全衛生管理体制・労働者の就業に当たっての処置など定めています。労働者の安全と衛生については、いずれも労働基準法に規定がありました。しかし、これらの規定を分離独立させてつくられたのが労安法なのです。なぜ、分離独立する必要があったのか、その理由は次の項目「1-3.目的・必要性」で説明します。
1-3.目的・必要性
労安法は労働基準法と異なり、労働災害の防止・危害防止基準の確立・職場における労働者の安全と健康の確保を目的としています。労働災害の発生を防ぐにはどうすれば良いのか、基準を設けることで各事業者は安全対策が徹底できるのです。また、労安法は快適な職場環境の促進と形成を目的としている法律でもあります。
1-4.適用される場所
労働安全衛生法が適用される場所は、「一定の場所で組織的な作業のまとまりがある」ところです。主に、建設物・設備・原材料・蒸気・ガス・粉じんなどを扱っている事業所になるでしょう。作業場では私たちにとって有害となる物質が飛んでいます。そのため、事業所は労働安全衛生法に基づいて健康障害の防止や労働者の健康・生命の保持に努めなければなりません。以下に、労働安全衛生法のURLを記載しているので、ぜひチェックしてください。
2.労働安全衛生法が定める労働安全衛生規則とは
労働安全衛生法が定める「労働安全衛生規則」というものがあります。労働安全衛生規則とは一体どんな内容なのでしょうか。
2-1.主な内容
労働安全衛生法は「法」で、国会が決めています。一方、労働安全衛生規則は「省令」で、行政官庁が定めるものです。もう1つ「労働安全衛生法施行令」があります。労働安全衛生施行令は「政令」です。必要な規定をまとめて制定したものであり、内閣が定めています。大まかに説明すると、「法律」→「施行令」→「規則」の順番どおり細かく決められているのです。労働安全衛生規則は安全衛生管理体制や安全衛生教育・就業制限・免許・安全基準・荷役運搬機械などを定めています。
2-2.目的
労働安全衛生法をより詳しく定めているのが「労働安全衛生規則」です。そのため、労働安全衛生法と同じ目的を持っています。労働者が安全に働くことができる環境づくりや健康を維持するための規則です。
2-3.いつ・どこで必要か
事業所によって取り扱う材料や作業機械が異なるでしょう。中には、私たちに害をなすアスベストや化学物質が空気中に舞っているところもあるはずです。毎日有害物質に囲まれた状態で働いていると、健康に害をおよぼします。だからこそ、労働安全衛生規則が必要なのです。労働安全衛生規則に基づき、有害物質の除染(じょせん)や1年に1回の定期健康診断をおこないます。以下に、労働安全規則の詳細URLを記載しているので、ぜひチェックしてください。
3.労働安全衛生法が定める労働衛生計画とは
労働安全衛生法を知るには、「労働衛生計画」がどんなものなのか把握しておかなければなりません。労働者や環境を守るためにも、必ずチェックしてください。
3-1.内容
労働衛生計画とは、重大な労働災害が発生したとき、厚生労働大臣が事業者に対して提出を指示する計画書です。重大な労働災害はとは、死亡災害や障害等級1級~7級に該当する障害が生じたものが当てはまります。また、事業場における危険性・有害性の調査に基づき、一定期間に限り、安全衛生計画を作成するケースもあるでしょう。主な内容としては、安全衛生目標を達成するための具体的な実施事項・日程・安全衛生教育・日常的な安全衛生活動の実施などです。
3-2.目的
安全衛生計画の目的は、「重大な労働災害の再発防止」です。二度と災害を繰り返さないためには、現状をきちんと把握して安全衛生計画を立てなければなりません。厚生労働大臣から指示された事業所は、作成した計画どおり、職場・労働環境を見直し改善することが大切になります。
3-3.届け出の義務
事業者は安全衛生計画の届け出を当該工事開始の日30日前までに済まさなければなりません。当該工事とは、工場の新設工事や危険・有害な機械などの設置、大規模な建設工事などです。届け出をすることで、厚生労働省はきちんと適切な処置がおこなわれているかどうか確認できます。職場・労働環境が改善されていると厚生労働省が認めれば、届け出は免除される仕組みです。また、免除の認定には3年ごとに計画書を更新していかなければなりません。3年以上経過すると、労働衛生計画の効力がなくなります。
3-4.いつ・どこで必要か
重大な労働災害が発生したとき、厚生労働省から指示を受けたときに「労働衛生計画」の作成が必要です。また、危険・有害な作業を必要とする場所や事業所の移転・健康障害防止のために使用するものの変更も計画書が必要になります。
4.労働安全衛生法の改正とストレスチェックの義務化について
労働安全衛生法は、そのときの健康被害状況によって改正されています。平成26年には「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が制定されました。そこで、労働衛生安全法の改正とストレスチェックの義務化について説明します。
4-1.改正の義務化について
平成26年6月25日に「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が公布されました。改正項目は全部で7項目あります。
- 化学物質についてリスクアセスメント実施の義務化
- ストレスチェック実施などの義務化
- 受動喫煙防止処置の義務化
- 重大な労働災害を繰り返す企業に対し、大臣が指示・勧告・公表をおこなう制度
- 法第88条第1項(機械などの事前届け出規制)の届け出を廃止
- 電動ファン付き呼吸用保護具が型式検定・譲渡制限の対象になる
- 外国に立地する機関も検査・検定機関として登録できる
中には義務化されている内容もあるので、しっかり把握しておきましょう。
4-2.メンタルヘルス・ストレスチェックとは
最近、社会情勢の変化によって、精神障害を原因とする労災認定件数が増加してきました。そのため、労働安全衛生法にもメンタルヘルス・ストレスチェックの実施が義務化されたのです。
4-2-1.内容
平成27年12月1日にストレスチェック制度が施行されました。ストレスチェックの実施などが事業者の義務になったのです。医師または保健師が、心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)をおこないます。検査結果によって、労働者から申し出があった場合、医師による面接指導が実施され、必要に応じては就業上の処置を講じるのです。また、管理監督者や労働者のメンタルヘルスケアも含まれています。
4-2-2.目的
メンタルヘルス・ストレスチェックの目的は一次予防です。労働者のメンタルヘルス不調によって、労働災害の発生リスクが高まります。労働災害が起きる前に、労働者自身や事業者が負担になっているストレスに気づかなければなりません。そして、ストレスの原因となる職場環境の改善に努めます。
4-3.ストレスチェックに必要な有資格者とは
ストレスチェックの実施者は医師・保健師免許を持っている人です。また、一定の研修を受けた看護師と精神保健福祉士も含まれています。
5.労働安全衛生法が定める有資格者について
労働安全衛生法が定める有資格者は、主に「免許」「作業環境測定士」「労働安全・衛生コンサルタント」の3つに分類できます。それぞれどんな資格があるのか見ていきましょう。
5-1.資格一覧
免許・作業環境測定士・労働安全(衛生)コンサルタントにわけて、それぞれの資格をピックアップしてみました。また、中でも代表的な資格である「労働安全コンサルタント」と「衛生管理者」について説明します。
<免許>
- 特級ボイラー技士
- 1級ボイラー技士
- 2級ボイラー技士
- 特別ボイラー溶接士
- 普通ボイラー溶接士
- ボイラー整備士
- クレーン(デリック)運転士
- 移動式クレーン運転士
- 揚貨(ようか)装置運転士
- 発破技士
- ガス溶接作業主任者
- 林業架線作業主任者
- 第一種衛生管理者
- 第二種衛生管理者
- 高圧室内作業主任者
- エックス線作業主任者
- ガンマ線透過写真撮影作業主任者
- 潜水士
<作業環境測定士>
- 第一種作業環境測定士
- 第二種作業環境測定士
<労働安全(衛生)コンサルタント>
- 労働安全コンサルタント
- 労働衛生コンサルタント
5-1-1.労働安全コンサルタント
労働安全コンサルタントは、事業場における労働安全や労働衛生の水準向上を図るために事業場の診断・指導をおこなう専門家です。厚生労働省の指定登録機関で登録を受けます。労働者や事業者に指導をおこなうため、労働安全・労働衛生に関する高い専門知識を持っておかなければなりません。
5-1-2.衛生管理者
衛生管理者は、常時50人以上の労働者がいる事業場において、必ず選任しなければなりません。安全衛生業務のうち、衛生に関係する技術的なものを管理します。第一種衛生管理者はすべての業種の事業場で働くことができ、第二種は一定の業種の事業場で働くことができる資格です。一定の業種は、有害業務との関連が少ない金融・保険業・卸売り・小売業・情報通信業などになります。
6.それぞれの資格についての詳細
それでは、労働安全コンサルタントと衛生管理者、それぞれの資格について詳しく説明します。
6-1.試験資格
労働衛生コンサルタントの試験資格は24項目あります。主な試験資格は以下のとおりです。
- 大学・専門学校で理系の課程を修了し、安全管理部門で実務経験5年以上
- 高校で理系の科目を修了し、安全部門管理で実務経験10年以上
- 技術士試験の合格者
- 第一種電気主任技術者の免許所持
- 1級土木施工管理技士試験の合格者
一方、衛生管理者の試験資格もいくつかあります。主な試験資格は以下のとおりです。
- 短大・大卒で実務経験1年以上
- 高卒で実務経験3年以上
- 学歴に関係なく実務経験が10年以上
以上のように、学歴によって実務経験の年数が異なります。より、詳しい試験資格は以下のURLで見られるのでぜひチェックしてください。
6-2.試験の概要
労働安全コンサルタントは1年に1回、衛生管理者は1か月に1回~4回試験が実施されています。それぞれの試験日時や実施地域を見ていきましょう。
6-2-1.日時
平成28年度における安全衛生コンサルタントの試験日は10月18日(火)でした。筆記試験・口述試験の2つにわかれており、口述試験は筆記試験の後となる翌年の1月中旬~下旬に開催されます。そして、衛生管理者は各センターによって実施日が異なるので注意してください。関東・中部・近畿センターは月に3~4回おこなわれています。
6-2-2.実施地域
労働安全コンサルタントの実施地域は、北海道・東北・中部・近畿・中国四国・九州安全衛生技術センター・東京都内です。ただし、口述試験に関しては東京・大阪での実施になります。衛生管理者の実施地域は全国各安全衛生技術センターです。
6-3.試験の内容
労働安全コンサルタントと衛生管理者の試験を以下にピックアップしました。
<労働安全コンサルタント>
●筆記試験
- 産業安全一般
- 産業安全関係法令
- 機械安全
- 電気安全
- 化学安全
- 土木安全
- 建築安全
●口述試験
関係法令の知識や安全管理に対する熱意など
<衛生管理者>
- 労働衛生
- 労働生理
- 関係法令
6-4.合格率・難易度
国家試験となる労働安全コンサルタントの合格率は、およそ30%前後です。合格率は低く、難易度としては「やや高め」と思ってください。一方、衛生管理者の合格率は、第一種でおよそ50%前後、第二種でおよそ60%と高いです。ただ、試験の難易度が低いわけではないので、しっかり計画を立てた勉強が必要になるでしょう。1か月に3~4回試験が開催されていることもあり、合格率が高くなっています。そのため、一発合格になると3~4割となるのです。
7.労働安全衛生法に関してよくある質問
労働安全衛生法に関してよくある質問を5つピックアップしてみました。
7-1.労働衛生委員会とは?
労働者の健康障害防止や健康保持増進を図るために対策を講じるのが「労働衛生委員会」の役割です。衛生に関することを調査審議して、事業者に意見を述べます。衛生委員会は常時50人以上の労働者を使用する事業者ごとに設置しなければなりません。
7-2.安全衛生のスローガンは必要か?
大手の企業や事業所では、安全衛生のスローガンを掲げています。スローガンを掲げることで、労働者たちの安全に対する意識を高めることができるのです。
7-3.メンタルチェックシートが知りたい
厚生労働省では、ストレスチェック実施プログラムを提供しています。事業場の担当者がダウンロードすれば、「5分でできる職場のストレスセルフチェック」が受けられるのです。ぜひ試してみてください。
7-4.労働者のメンタルケアとは主に何をするのか?
医師・保健師による面接や職場環境の改善が主なメンタルケアになります。また、衛生管理者は労働者から職場環境について聞き、職場環境の改善が必要な箇所を見つけていかなければなりません。
まとめ
労働安全衛生法は、労働者はもちろん、事業者にとっても事業場を運営するための大切な法律です。職場の環境が悪くなればなるほど労働者の健康状態も悪くなり、会社・事業場が機能できなくなってしまいます。安定した労働環境を維持し続け、労働者の健康を守るためには、労働安全衛生法について知ることが大切ですよ。また、労働安全コンサルタントや衛生管理者など、労働安全衛生法に基づく資格を取得してください。資格を取得すれば、自分のスキルアップにつながり、昇給昇格も期待できます。労働安全衛生法を把握したうえで試験に挑みましょう。
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