特定建築物の定期報告とは? 定期報告書の内容や関連資格について
2017/09/18
2021/04/07
特定建築物とは、店舗・事務所・百貨店など面積が3,000㎡以上の建築物です。不特定多数の人が出入りする建築物は、老朽化や設備の不備などで大きな事故・災害につながるおそれがあります。安全・安心な建築物を維持しつづけるためには、定期調査と検査が必要です。定期調査・検査を行うたびに、定められたところへ報告しなければなりません。
本記事では、特定建築物の基礎知識・定期報告・関連資格と講習について説明します。
この記事を読むことで、特定建築物の定期報告や関連資格・講習について知ることができます。資格取得を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
1.特定建築物の基礎知識
特定建築物とは、どのような建築物なのでしょうか。定期報告について知る前に、基礎知識を身につけることが大切です。それでは、特定建築物について詳しくチェックしていきましょう。
1-1.概要・基づく法律について
特定建築物は、以下の要件をすべて満たす建築物のことです。
- 建築基準法に定義された建築物であること
- 1つの建築物において、次に掲げる特定用途の1または2以上に使用される建築物であること。(特定用途:興行場・百貨店・集会場・図書館・博物館・美術館・遊技場・店舗・事務所・学校・旅館)
- 1つの建築物において、特定用途に使用される延べ面積が、3,000㎡以上である。小学校・中学校などについては、8,000㎡以上であること。
特定建築物は、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築基準法)」に基づいています。法律に従って維持管理を行い、所有者は建築物環境衛生管理技術者の選任・監督させることが義務づけられているのです。
1-2.該当する建築物とは
特定建築物は、広くて不特定多数の人が利用する建物となります。続々とオープンしている商業施設も、特定建築物の1つです。しかし、病院・老人ホームなど「特殊な環境」に当たると判断された建築物は当てはまりません。すべての建物が該当するわけではないので注意してください。また、特定用途に利用される部分の面積とは、以下の項目を合計したものです。
- 特定用途の部分
- 特定用途に附随(ふずい)する部分(廊下・便所など)
- 特定用途に附属する部分(専用の倉庫・駐車場など)
2.特定建築物の定期報告について
特定建築物の定期報告・定期報告制度、必要性・重要性、実施する人・報告内容などについて詳しく説明します。特定建築物を維持管理する人は、必ず知っておかなければならない項目です。
2-1.定期報告・定期報告制度とは
特定建築物の適切な維持管理を行う・事故や災害を防止することを目的とした、定期報告制度があります。特定建築物の設備を定期的に調査・検査を行い、その結果を報告する制度です。都道府県によって、報告制度が細かく定められています。具体的には、一定の条件を満たす建築物の所有者・管理者が、専門技術を有する資格者に調査・検査をさせ、その結果を特定行政庁へ報告することが法律で決められているのです。
2-2.必要性・重要性
不特定多数の人が出入りする特定建築物は、大型施設が多く、設備も大規模です。避難・換気・給排水・排煙・照明設備など、建築物を維持するために必要な設備が整っています。これらの設備が正常に稼働しない場合、水が出ない・換気ができない・避難できないなど大きな事故・災害につながる危険があるのです。あらゆる事故・災害を防ぎ、万一のときに対応するためには、常に設備を点検しておかなければなりません。きちんと点検を行っているのか、確認するために「定期報告」が必要となります。
2-3.誰が行うか
特定建築物の監督を行う、「建築物環境衛生管理技術者免状」を有する者が定期報告を行うことになります。特定建築物の所有者・管理者は、免状を有する者から建築物環境衛生管理技術者を選任しなければなりません。選任されたものが、責任を持って定期検査の内容を提出先へ報告します。
2-4.報告しない場合はどうなるか
定期検査の報告は、建築基準法で義務づけられています。そのため、報告しない場合は、法律違反としてみなされるでしょう。行政から、特定建築物の管理権限者に対し警告します。定期検査の報告を求めたり、立ち入り検査を行ったりする場合もあるのです。維持管理が行われていない、と判断された場合は、改善・使用禁止命令が出されます。
2-5.時期など決まりごとについて
定期報告の時期は、特定建築物の種類によって異なります。たとえば、劇場・映画館・演芸場の場合、毎年報告しなければなりません。学校・体育館・博物館などは、3年ごとの報告となります。定期報告が必要な特定建築物の報告時期については、こちらをご覧ください。
2-6.報告内容
建築基準法に基づく特定建築物の定期報告は、主に、6つの項目に分かれています。主な報告内容は、以下のとおりです。
- 敷地および地盤:敷地内の通路・擁壁(ようへき)の状況など
- 建築物の外部:外壁の劣化状況など
- 屋上および屋根:屋上まわりの劣化状況など
- 建築物の内部:防火区画や床・天井の状況など
- 避難施設等:避難施設・非常用設備の状況など
- そのほか:地下街・免震装置・避雷設備・煙突などの状況調査
2-7.報告書の書き方
具体的な報告書の書き方は、行政によって異なります。詳細は、各都道府県のホームページなどを確認するとよいでしょう。主に、報告書に記載するのは、以下のとおりです。
- 所有者・管理者・調査者の名前や電話番号・住所などの個人情報
- 報告対象建築物の名前・用途
- 敷地の位置
- 調査の状況
- 不具合を把握した年月
- 調査結果など
参考として、「公益財団法人 東京都 防災・建築まちづくりセンター」のホームページでダウンロードできる定期調査報告書をチェックしてください。
2-8.提出先
報告書の内容を確認した後、特定行政庁に提出します。ただし、行政によって提出の流れが異なるので注意してください。たとえば、東京都の場合、「東京都防災・建築まちづくりセンター」に提出します。それから、センターで報告書の内容を確認し、特定行政庁に送付する流れです。
2-9.注意点
定期報告の期限までに提出しなければ、法令違反となります。その場合、建築基準法101条により、100万円以下の罰金が科せられることがあるので注意してください。報告書について分からないことがあれば、各都道府県に問い合わせて確認することが大切です。
3.特定建築物の定期報告に関わる資格について
特定建築物の定期検査を行うためには、関連する資格を取得しなければなりません。ここでは、建築物環境衛生管理技術者・資格取得について説明します。
3-1.建築物環境衛生管理技術者について
特定建築物の関連資格といえば、建築物環境衛生管理技術者です。通称・ビル管理技術者やビル管理士と呼ばれ、建築物の環境衛生の維持管理に関する監督などを行う国家資格となります。特定建築物においては選任義務が課せられている資格です。選任されたビル管理技術者は、事実上の最高責任者として、定期報告書を提出します。
3-2.資格取得について
資格を取得するためには、国家試験に合格しなければなりません。ここでは、建築物環境衛生管理技術者の受験資格・試験内容・勉強法について説明します。
3-2-1.受験資格
受験資格は、厚生労働省で定められた建築物の用途部分において、同省令の定める実務に2年以上従事した者です。実務に従事した建築物の用途と実務内容は、以下のとおりとなります。
<実務に従事した建築物の用途>
- 興行場・百貨店・集会場・図書館・博物館・美術館・遊技場
- 店舗・事務所
- 学校
- 旅館・ホテル
- そのほかの類する建築物
<実務内容>
- 空気調和設備管理
- 給水・給湯設備管理
- 排水設備管理
- ボイラー設備管理
- 電気設備管理
- 清掃・廃棄物処理
- ねずみ・昆虫などの防除
詳細は、主催の「公益財団法人 日本建築衛生管理教育センター」のホームページをチェックしてください。
3-2-2.試験内容
試験は毎年1回、10月上旬の日曜日に実施されています。札幌市・仙台市・東京都・名古屋市・大阪府・福岡市の6か所で開催され、受験料は13,900円です。申し込み方法は書類の郵送となっており、願書一式はホームページからダウンロードできます。また、試験科目は以下のとおりです。
- 建築物衛生行政概論
- 建築物の構造概論
- 建築物の環境衛生
- 空気環境の調整
- 給水および排水の管理
- 清掃
- ねずみ・昆虫等の防除
4.特定建築物の定期報告に関する講習について
受講資格がある人は、試験ではなく、講座を受講することによって資格が取得できます。それでは、建築物環境衛生管理技術者の講習会についてチェックしていきましょう。
4-1.受講資格
受講資格は、学歴と免許によって15の項目があります。中には、実務内容が1~5年必要となる項目もあるため、注意してください。受講資格の詳細は、主催の「公益財団法人 日本建築衛生管理教育センター」を確認しましょう。
4-2.講習概要
講習会の申し込み方法、講習日・場所、受講料について説明します。
4-2-1.申し込み方法
申し込み方法は、受講申し込み手引を入手して各種添付書類を用意した後、受付期間中にセンターへ送付します。受講申し込み手引はセンターのホームページでダウンロード可能です。
4-2-2.講習日・場所
講習会の実施場所は、大阪府・東京都・福岡県・北海道・愛知県・宮城県などランダムです。いつどこで開催されるのか分からないため、センターのホームページで確認してください。受講料は、108,800円と高めです。
4-3.講習内容
約3週間かけて103時間の講習を受けることになります。講習科目および受講時間は、以下のとおりです。
- 建築物衛生行政概論(12時間)
- 建築物の構造概論(8時間)
- 建築物の環境衛生(13時間)
- 空気環境の調整(26時間)
- 給水および排水の管理(20時間)
- 清掃(16時間)
- ねずみ・昆虫等の防除(8時間)
4-4.問い合わせ先
疑問点がある場合は、「公益財団法人 日本建築衛生管理教育センター」に問い合わせてください。電話またはFAXで問い合わせが可能です。
5.特定建築物の定期報告に関してよくある質問
特定建築物の定期報告に関してよくある質問を5つピックアップしてみました。
Q.定期報告書は保管しなければならないのか?
A.定期報告書の副本などは、保管が義務づけられています。建築物環境衛生管理基準に関する帳簿書類と環境衛生管理に必要な帳簿類は5年間、建築物の構造・設備の配置・系統を明らかにした図面は3年間です。
Q.特定行政庁とは?
A.建築主事を置く地方公共団体およびその長(おさ)のことです。すべての都道府県および政令で指定した人口25万人以上の市に、建築主事の設置が義務づけられています。特定行政庁は、建築許可・違反建築物に対する措置命令など、行政行為の実施が可能です。
Q.建築物環境衛生管理技術者が点検を行うのか?
A.あくまで、建築物環境衛生管理技術者は、維持管理業務計画の立案・監督・検査の実施とその評価を行う役割を担っています。実際に、特定建築物の点検を行うのは、一級・二級建築士や特定建築物調査員です。
Q.定期報告の提出にお金はかかるのか?
A.都道府県によって異なりますが、事務手数料がかかります。たとえば、東京都の場合は、3,000㎡以上のものが2,700円、3,000㎡以上~10,000㎡以内のものが4,860円、10,000㎡以上のものが8,100円です。
Q.建築物環境衛生管理技術者の合格率が知りたい
A.平成28年度の合格率は、約29%でした。近年の合格率を見てみると、10~25%前後となっているため、決して易しい試験ではありません。確実に合格を目指すためには、地道な勉強が必要でしょう。
まとめ
不特定多数の人が出入りする特定建築物は、安心・安全に維持管理をし続けるための定期報告が義務づけられています。建築物に異変がないかどうかチェックをして、特定行政庁へ提出しなければなりません。提出を怠れば、罰金が科されたり、使用停止命令が出されたりすることになるので注意が必要です。選任された建築物環境衛生管理技術者が責任を持って検査を実施し、報告書を作成します。建築物の維持管理をするためにも、必要な知識を身につけてください。
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